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発散の意味

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 発散は,電磁気学やベクトル解析の勉強をすると必ず学ぶことになります。
 発散は,回転と合わせて電磁気学現象を説明する上で不可欠の表現となっています。 したがって,発散と回転を自分の言葉で理解できていないと,その先へ進むことはできません。
残念ながら,学生時代の私には,大学の授業の電磁気学やベクトル解析はおろか,発散や回転すら理解できませんでした。
それどころか講義で何を話していたのか覚えていません。あまり講義に出た記憶もありません。 大学の講義は,全く面白みが無く今にして思えば単なる時間の無駄以外の何者でもありませんでした。

 しかし,有限要素法を独学するようになって大学の講義の時は興味も面白みも感じなかった電磁気学やベクトル解析を勉強することが楽しくなりました。 有限要素法という大きな対象を理解するためには,線形代数,微分積分,ベクトル解析,電磁気学,材料力学,流体力学,などが必要です。
 また特にどの部分が理解するうえで重要かもわかるようになりました。 そして,独学で学んだ方はわかると思いますが,多くの教科書や講義が初学者が容易にわかる仕組みになっていません。

 ここでは,有限要素法の勉強をする上で躓きの原因となる発散について説明します。 わかっている人は読まなくても構いません。
 発散は,磁場解析ではdiv B = 0 などと表現され必ず最初に出てきます。 その割には,電磁気学にしろベクトル解析の授業や教科書をいくら読んでもよく意味がわかりません。 そのうち発散は電磁気学やベクトル解析でことあるごとに出てきます。 発散のもとの意味がわからないのですから,早晩勉強に行き詰まることになり,多くの人がここで挫折してしまうのではないでしょうか。

 では発散とは何を意味しているのでしょうか。
この問いにすぐに答えることができる人はよく勉強されている人です。

 発散とは,文字通りに考えると物理量が無限遠方に拡散していくことです。
我々の身の周りの自然現象において,無から有が生じるということは量子力学の世界でない限りありません。
したがって,物理量は場(日常の感覚で言うと空間のこと)のどこからか源が存在していて,そこから現れるはずです。
このような源のことを湧き出し点(Source Point)といいます。
また,場に生じた物理量が拡散するのではなく,反対にある点に集束する場合があり,その点のことを吸い込み点(Sink Point)といいます。

 物理量が無限遠方に拡散したり,ある1点に吸い込みが起こっている場合,その量がどれだけのものか知りたくなります。
そして,その量がどれだけなのかを表すのが物理学における「発散」の意味です。

 場において注目している物理量の発散量は次のように考えることで求めることができます。
 すなわち物理量が無限遠方にずうっと単調に拡散し続けるのであれば,その量は湧き出し点から湧き出した量であると考えることができます。
 したがって,湧き出し量を求めることが「発散」のオペレーションです。
例えば,マクスウェル方程式の一つである  div D = ρ は,電束密度が湧き出し点から出て周囲へ発散する量は,電荷密度と同じであることを示しています。これは極めて自然な考え方です。なぜなら,電荷は正負の値を持ち正電荷あるいは負電荷どうしは反発するので,あるソース点から出た電束が同じソース点に戻ってくることはないからです。
 したがって,「発散」で表される物理量とは,湧き出し量と解釈することができます。

 一方,磁束密度(磁束密度は,磁束線の単位面積あたりの本数を意味しています) については発散が 0 という説明が必ずなされています。
しかし,自分自身でこれがどういうことなのかを言葉で説明できなければ理解したとはいえません。
磁束密度の発散についてのマクスウェル方程式は div B = 0 です。
即ち,磁束密度の発散量は0ですよということを言っています。
発散量がゼロということはどういうことなのでしょうか。
発散は湧き出し量を意味していると考えられるので,磁束密度の発散量が 0 ということは,磁束密度の湧き出し量が 0 ということです。
磁束密度の湧き出し量が 0 というのはどのような状態かと言うと,磁束密度(磁束線)の始点と終点がつながっているということです。
具体的なイメージとして,磁束線が閉ループを描いているところを想像してください。
磁束線の始点と終点がつながって閉ループ構造をした磁束線は,電束線のように無限遠方に拡散したりすることはありません。
すなわち,磁束線は発散しないということです。
そのため発散量が0となるわけです。

 ではなぜ磁束線は発散しないのでしょうか?
それは,磁場が電流に誘導されて生じるからです。
磁場のソースは電流です。
電流が流れるとその周囲に磁場がループ上に形成されます。
だから磁場(磁束)は電束のように一点から飛び出て来るイメージではなくて,電流の周囲に誘導されてできる物理現象なのです。
したがって,湧き出し点は存在しません。
「発散」が湧き出しの量を表現するという立場から眺めると,磁場は湧き出し量が 0 ということになります。
理論的には,磁場は無限遠方まで広がっている現象といえますが,発散は 0 であることに注意します。
磁束線は,無限遠方に広がっていても必ず閉ループを形成しているからです。

まとめ

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