磁界解析のための境界条件3
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全体を解析するのをやめて対称性を利用して4分の1の解析で済ませるには次のような境界条件の設定が必要になります。
図5 全体モデルと4分の1モデル
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B
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A
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C
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D
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図6 4分の1モデル−1
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対称性を利用するためには図6において各境界ABCD上に何かしらの境界条件を設定する必要があります。磁界解析では磁束線が境界に対して垂直になると想定される境界には自然境界条件を設定し,磁束線が境界に対して平行になると想定される境界には固定境界条件を設定します。
以上を踏まえて図5と6を見比べて下さい。境界Aでは磁束線が境界に対して垂直になっていますので境界Aには自然境界条件を課します。次に境界Dについてですが,これは磁束線が境界に対して平行になっていますのでDにはポテンシャル0の固定境界条件を課します。平行になっている部分は磁石のN極の中央部から出たポテンシャル部分であり,この部分では±0となる値をとることから固定境界条件の値を0としたのです。
B 自然境界条件 B 無限要素 A
自
然
境
界
条
件
C
自
然
境
界
条
件
A
自
然
境
界
条
件
C
無
限
要
素
D 固定境界条件 D 固定境界条件 図7 自然境界条件の場合 図8 吸収境界条件の場合
磁界解析において問題は境界B,Cにどのような条件を適用するかということです。磁界は理論上無限遠に広がっている現象です。しかしながら有限要素法では,解析領域を有限の領域で打ち切らざるを得ません。それを踏まえた上で,磁界は距離の2乗に比例して減衰していくので,磁界が十分小さくなる領域までを含むように解析領域を大きくとってB,Cにポテンシャル0の固定境界条件とする方法が考えられます。これは解析領域を磁気シールドで囲むことを意味します。磁気シールドで囲まれた内部を解いているといえるでしょう。
あるいは図7のようにB,Cには自然境界条件を課す方法が考えられます。この場合は磁性体の境界で磁束が垂直になることを考えると,解析領域外周部を磁性体によって囲まれていると考えることができます。つまり磁性体の箱の中にある領域を解いているような感じになります。もっともどちらが精度がよいかは実際に解いてみるまでわからない部分があります。
固定境界条件の場合でも自然境界条件の場合でも境界付近に実際には存在しないはずのポテンシャル分布が見られることがあります。それは無限遠に広がる現象を有限領域で打ち切ったことによります。したがって,無限要素という特殊な要素を境界外周に付加することで無限遠を考慮したような解析を行なうことができます。無限要素は吸収境界条件とも呼ばれますが,無限遠方でポテンシャルが0となるような内挿関数により構成される要素で,いくつかの種類があります。ここではラプラス場の無限要素を採用しています。
図8にこの様子を示しましたが自然境界条件では理論とは異なるポテンシャル分布となってしまいましたが,無限要素を付加した場合は理論にかなり忠実なポテンシャル分布が得られることがわかります。このように無限要素を使用することで無限遠方場の現象も精度よく扱えることがわかります。
ただしここで重要なことは,例えばこの解析の目的は一般的には永久磁石近傍領域の磁界の様子を知るということでしょう。永久磁石近傍領域でのポテンシャル分布はどのような境界条件でもほぼ同じ値が得られることに注意してください。注目している領域で同等の結果が得られるならばより簡単なほうの解析で済ますということは十分許されることだと思います。むしろ実用解析では必要な事です.目的によりますが,目的を達成できるならばあまり細かいことにこだわらずに割り切ってモデル化と解析を行ない,その結果をモデル化のときの仮定と照らしながら検討すればよいと思います。私たちは実物を解いているわけではありません,モデル化された微分方程式を解いていることを忘れてはいけないと思います。もう一度言いますが,細かいことを気にするよりも目的が達成できればそれでOKというのが工学の醍醐味ではないでしょうか。