永久磁石の磁気特性 M-B近似モデリング | |
永久磁石の磁気特性を図 3 に示します.
|
|
図 3 永久磁石材料の B-H および M-H 曲線 |
|
一般に永久磁石は磁化によって N 極と S 極に分極しています. そして皆さんご存知のように,磁束線は N 極から出て磁石外領域を通って S 極へ向かいます. しかしながら,一部の磁束は磁石内部を通って N 極から S 極へ向かおうとします. これにより磁石内部には外部磁場と反対向きの磁界である「反磁場 Hd 」が発生しています. この様子を図 4 に示します. そのため永久磁石が外部に作る磁場以外の外部印加磁場(別の磁石磁場やコイルが作る磁場など)が 0 のとき (例えば,磁場 0 の空気中に置かれた磁石など),磁石の動作点は必ず B-H 曲線上の第 2 象限上にあります. したがって,永久磁石について考える時 B-H 曲線の第 2 象限部分は重要な意味を持っており, 「減磁曲線」と呼ばれています. |
|
図 4 永久磁石と反磁場 |
|
反磁場の大きさは,N 極と S 極の距離が磁極断面の直径
(円柱以外の形状では等価直径)に比べて短いほど大きくなります.
アルニコ磁石は,残留磁場 Br [T] が大きいものの
保磁力が小さいため反磁場の影響を大きく受けてしまいます.
フェライト磁石は,残留磁場 Br [T] は小さいものの, 保磁力がアルニコ磁石よりも 6 - 10 倍程度大きいため 少し偏平な形状でも磁気特性が劣化しません.また材料が安価であることが最大の長所で最も多用されている磁石です. ただし,温度係数が大きく高温環境で磁気特性が劣化するので注意が必要です. 希土類磁石は,高残留磁場かつ高保磁力と磁気特性が大変優れています. また減磁曲線は真空中の透磁率 μ0 に近い傾きを持つ直線形であるのが特徴です. |
|
図 5 代表的な永久磁石の減磁曲線 |
|
以上より,永久磁石の磁気特性では B-H 曲線の減磁曲線部分が重要になります.
ここでは B-H データから M-B 近似曲線のサンプル点データを求める方法を説明します.
磁性体の磁気特性は式(2.1)により表され,磁化 M [T] について表現すると 式(2.2)のようになります. |
|
(2.1)
|
|
|
(2.2)
|
ここで,磁場 H [ A / m ] は,B-H 曲線を見ればわかるように,
磁場 B [T] の関数と考えることができます.
|
|
図 6 B-H 曲線と H-B 曲線 |
|
希土類磁石の減磁曲線は,傾きが真空中の透磁率 μ0 [ H / m ] にほぼ等しい直線であるので
H [ A / m ]を,B [T] の関数で表すことは容易であり,図 6 の(2)を参考にすれば 次のように表すことができます. |
|
(2.3)
|
|
式(2.3)を式(2.2)に代入してまとめると 式(2.4)が得られます. | |
(2.4)
|
|
ただし,0 < B < Br です. | |
以上より,永久磁石の減磁曲線を M-B 曲線に変換近似することができました. ただし,これは B が 0 から Br のときに成り立つ近似であることに注意してください. 外部磁場の影響で,永久磁石の磁場がこの範囲を超える場合は, 解析する問題に応じて適切な補正を行なう必要があります. このようなケースは,交流磁場や直流反磁場が永久磁石に加わるような問題で現われます. また屈曲点が第 2 象限に現われる場合については,希土類磁石の場合,屈曲点より上の部分で解析を行ない, 屈曲点より下に動作点が落ちた場合に解析を中止する方法をとればよいでしょう. 一般の応用機器では,永久磁石は安定的に外部に磁場を供給する目的で使用されます. 屈曲点より下に動作点がくると永久磁石の性能が急激に低下するため機器の動作が不安定になる恐れがあります. したがって,屈曲点より下に動作点がきた場合には,あまり解析を行なう意味がないと考えられるのです. 屈曲点以下に動作点が移動する場合は,解析を中止することとすれば,屈曲点より高磁場領域で線形な M-B 特性を 近似して解析を行なえばよいでしょう. |
|