磁場解析 例題2 電磁力計算精度の検証
ここでは,文献1および2を題材に電磁力計算を行い,作成した2次元静磁場解析プログラムの動作検証ならびに精度検証を行います。
文献1では,改良エネルギー変位法による電磁力計算結果をマクスウェル応力法による結果と比較することで,その有用性について検討されています。
文献2では,文献1で取り上げられた検証問題を題材にして,節点力法による電磁力計算結果をマクスウェル応力法による結果と比較することでその優位性について述べられています。

文献1
大立泰治,河瀬順洋,長井博司,村上康典:「改良エネルギー変位法を用いた電磁力計算法の検討」,平成5年電気学会全国大会 957 pp.8-58

文献2
亀有昭久:「節点力法による電磁力解析」,SA-93-11,RM-93-49(電気学会静止器,回転機研究会資料)

これから磁場解析をやりたい人で,特に電磁力計算が要求されるという人は是非この文献を読んで注意点などを勉強してみてください。

計算モデル

文献1で取り上げられた電磁力計算精度検討モデルの概要図を図1に,計算モデルを図2に示します。
同じ寸法の永久磁石と磁性体がそれぞれ1個ずつあります。
このとき,磁性体に作用する電磁力をマクスウェル応力法を用いて計算し,その積分路のとり方による計算精度への影響を検討します。

図1 モデル概要図

図2 計算モデル

計算条件

計算モデルは,問題がy軸に関して対称であることを利用して,2分の1モデルで行います。

x = 0 である境界 KR では,磁石の磁化方向が y 軸方向であるので,磁束線が y 軸と平行になることが容易に推察されます。
したがって,境界 KR には,ベクトルポテンシャル A = 0 となる固定境界条件を適用します。

他の境界 KL , LQ , QR は,本問題では磁束線が無限遠方に分布する開領域問題であるところを有限領域で打ち切るための人工的な境界であり,文献1では自然境界条件を適用しています。
ここでは,文献1 にならってまずは自然境界条件を適用します。
有限要素解析領域として,文献2では x = 54[mm],y = ±53[mm] となっています。
今回私が作成したモデルでは, x = 36 [mm],y = ±35 [mm] としました。

また,永久磁石について磁性体側の表面を y = 0 とします。
文献では,電磁力計算のためのマクスウェル応力計算の積分路を y を変えて設定し,どこに積分路をとれば計算精度がよいかを調べることを目的としています。
なお,マクスウェル応力法の積分路は計算モデルでは M -> N にとっています。
このようにとると,求められる電磁力は磁性体に作用する力となります。
逆に N -> M にとると永久磁石に作用する電磁力となります。
この系には,永久磁石と磁性体のみが存在しますので,磁性体に作用する電磁力が求まれば作用反作用の原理から,永久磁石に作用する力を求めることができます。

ここでは言及しませんが,永久磁石と磁性体の両方を囲むようにマクスウェル応力法の積分路を設定すれば,得られる電磁力は 0 でなければなりません。しかしながら,通常は計算誤差の分だけ電磁力が算出されます。この計算誤差には磁束密度の取り扱い方やメッシュ配置に依存した様々な要素があるようで興味深いところです。もし興味のある人はトライしてみてください。その際は下記のサイエンスソリューションズ株式会社様のサイトが秀逸です。
http://www.ssil.com/em/EMSolution/ja/Support/FAQ/Q2/Problem23.html

 

【材料特性】
永久磁石の磁化 M [T] は,y軸の正方向を向いておりその強度は 1.0 [T] で一定とします。
磁性体の比透磁率は,3000 として一定とします。したがって,透磁率は

μ=μr×μ0 = 3000 × 4π×1.0E-07 = 3.768E-03 [H/m]

ν= 1/μ = 1/ 3.768E-03 = 265.258 [m/H]

となります。(ここでは,磁性体の磁化を [T] の単位で定義しています)

要素分割図

図3に要素分割図を示します。
なお,今回の計算では
節点数 2405
要素数 4608(すべて三角形一次要素)
とし,磁石と磁性体の間の空間は 1辺の長さが 0.25 [mm] となるように要素分割しました。

 

   

図3 要素分割図(左:全体図,右:磁石付近拡大図)

計算結果 コンター図

計算結果を図4および図5に示します。
図4より,遠方境界には自然境界条件を採用したので,磁束線は境界に対して垂直に入射するように分布しています。

  

図4 計算結果(左:磁束線図,右:磁束密度分布)

図5 磁束密度分布拡大図

 

計算結果 電磁力

積分路のY座標を変えて計算した電磁力の結果を表1に示します。
また図6,7にグラフを示します。
電磁力の基準解としては,文献2に記載されている Fy = 4.6420 [N/m] を採用しました。
誤差の計算は次のように行っています。

誤差 [%] = 絶対値((基準解 - 計算値 ) / 基準解 )*100

 

表1 電磁力計算経路による比較

No.
積分路のy座標 [m]
Fy [N/m]
基準解との誤差 [%]
1
0.25E-03
4.9530
6.701
2
0.50E-03
4.7092
1.448
3
0.75E-03
4.6287
0.287
4
1.00E-03
4.5951
1.010
5
1.25E-03
4.5808
1.318
6
1.50E-03
4.5758
1.427
7
1.75E-03
4.5766
1.409

 

  

図6 積分路による電磁力の比較              図7 積分路による電磁力の誤差

まとめ

計算結果は,永久磁石付近では電磁力計算の誤差が大きくなることを示しています。
また磁性体付近では精度はほぼ一定であると言えます。
したがって,電磁力計算精度は磁性体側に近いほうで定義することで安定した結果が期待できそうです。
しかしながら,一般的には電磁力計算でどこに積分経路を取れば精度が良いかはケースバイケースだと考えたほうが無難でしょう。
今回,永久磁石より1層分の空気領域での計算精度が悪化していますが,有限要素が1次近似ですので,磁場の急変を捉え切れていない可能性が高いといえます。
磁場が急変している領域に積分路を設定しなくてはならない場合には,空気領域の要素分割を細かくして磁場の急変をある程度解像度良く捉える必要があるいえるでしょう。

今後の発展としては,次のようなものが考えられます。
(1) メッシュを細かくした場合
(2) メッシュを粗くした場合
(3) 解析領域を変えた場合
(4) 境界条件を変えた場合

節点力法に関する文献としては次のものが有名です。
著者は,文献2を書かれた亀有先生です。

Akihisa Kameari :「Loacal force calculation in 3D FEM with Edge elements 」,International Journal of Applied Electromagnetics in Materials3 (1993) 231-240 Elsevier

かなり昔の発表としては次のものがあります。
中田高義,高橋則雄:「磁束密度の計算誤差とトルクの精度」,昭和60年度電気学会全国大会,841

|磁場解析Topへ| |次へ|  | TOP |