2 次元磁場解析 NO.1 / 2次元磁場解析の支配方程式

ここでは,マクスウェルの方程式から準定常磁場解析の支配方程式を導出します。
マクスウェルの方程式は次の 4 つの式で表されます。
(1.1)
(1.2)
(1.3)
(1.4)

ここで,B は磁場[T],E は電場[V/m],H は磁界[A/m], J は駆動電流密度[ A / m2 ],D は電束密度です。

式(1.1)は,アンペールの法則であり,電流が流れると周囲に磁界 H [A/m] を誘導することを示しています。
式(1.2)は,ファラデーの電磁誘導の法則であり,磁場 B [T] が時間的に変化すると 周囲に電場 E を誘導することを示しています。
式(1.3)は,磁場 B [T] の保存を表す式です。これは,磁束線は常に連続であるという意味です。
式(1.4)は,電荷の保存を表す式です。

以上 4 つの式に続いて,次の 3 つの構成方程式を考えます。

(1.5)
(1.6)
(1.7)
ここで,μ は媒質の磁気透磁率[H/m],ε は媒質の誘電率[F/m],σ は媒質の導電率[S/m]です。 単位の変換は次に示すとおりです。

1 [H] = 1 [ Wb / A ] = 1 [ m2kg / A2 sec2 ]

1 [ H/m ] = 1 [ Wb / A m ] = 1 [ m kg / A2 sec2 ]

1 [F] = 1 [ C / V ] = 1 [ A2 sec4 / kg m2 ]

1 [ F/m ] = 1 [ C / V m ] = 1 [ A2 sec4 / kg m3 ]

1 [S] = 1 [ A / V ] = 1 [ A2 sec3 / kg m2 ]

1 [ S/m ] = 1 [ A / V m ] = 1 [ A2 sec3 / kg m3 ]

異なる媒質 1 〜 2 における境界条件は,次の5つの式で与えられます。 準定常磁場解析では,特に式(1.10)と(1.11)が重要です。
この 2 式は不連続境界で,磁場 B [T] については境界面の法線成分が, 磁界 H [A/m] については接線方向成分のみが連続であれば良いことを示しています。
(1.8)
(1.9)
(1.10)
(1.11)
(1.12)
 ここで,n は媒質の境界に立てられた法線ベクトルです。
 式(1.1)と式(1.2)では,電場と磁場が結びついているので, 高周波問題などの解析では 2 式を連立して解く電磁場解析を行う必要があります。
 一方,低周波問題では時間微分項は無視できるので,静電場問題と静磁場問題に分離され, 式(1.1)または(1.2)のどちらか一方を解く準定常問題へと縮小されることになります。

 解析領域内に,永久磁石ではない強磁性体があり,渦電流を無視した静磁場問題について考えます。 10 MHz 以下の低周波数領域において マクスウェル方程式(1.1)の変位電流の項は無視してよいので, 式(1.1)で時間微分項を無視した式と式(1.3)の 2 つの式を考えます。

(1.13)
(1.14)
ここで,式(1.14)より磁場は発散しない(磁束線の始点と終点がつながっているということ)ので, 磁場 B [T] に対して
B = rot A
(1.15)

となるような磁気ベクトルポテンシャル A [ Wb / m ] を定義することができます。

*電流が流れるとその周囲に磁場が誘導されます。
磁束線は電流源に対して渦状に生じますので,磁束線は必ず始点と終点が同じ点となりループを形成します。
したがって,必ず,div B = 0 となります。(モノポールの不在)

*一般に,あるベクトル場 X が別のあるベクトル場 Y によって X = rot Y と 表されるとき YX のベクトルポテンシャルといいます。

よってベクトルの公式

div rot A = 0
(1.16)
より式(1.3)が恒等的に満たされることがわかります。 (補足1)
ここで,任意のスカラーポテンシャル φ の勾配を加えた新たなベクトルポテンシャル A’ を次式のように定義します。
(1.17)
このことから, が次の式を満たすことは明らかです。 (補足2)
(1.18)
 以上より,この時点では A に関するベクトル場は,スカラーポテンシャル φ の勾配の数だけ存在することになり,φ は任意のポテンシャルとみなせます。 そのため事実上ベクトル場は無限に存在すると言い換えることができます。
 すなわち,この時点では A に関するベクトル場が一意に定まっていないことを意味しています。 一般的にベクトル場が一意に定まるためには,回転と発散が与えられる必要があります。 ここでは回転のみが与えられているので,発散(ベクトルポテンシャル A が連続であるという条件) を次の式で与えます。
(1.19)

以上の操作をゲージ変換といい,ここで与えた発散条件のことをクーロンゲージ条件といいます。
ここで特に注目すべきことは, 2 次元場では次の 2 つの仮定がなされるということです。

1:であること (補足3)

2:z 方向には, A は変化しないこと ---> dA / dZ = 0

以上の仮定により,2次元場ではクーロンゲージ条件が自動的に常に満足されます。 したがって、一般的に 2 次元解析ではゲージ条件を意識することなく解析することが可能です。

 以上より 2 次元問題に関しては,A に関するベクトル場が一意に定まることがわかりました。

 次に駆動電流による静磁場の支配方程式を導きます.
 駆動電流とは,外部電源より導入される電流のことで,磁場変化に伴い磁性体に誘起される渦電流や, 磁性体の磁化モデルから仮定される磁化電流と区別して下さい。
一般には,単に電流ということのほうが多いでしょう。しかしながら,磁場解析では解析モデル (これを系と呼ぶことにします)になんらかの入力があって,それに対して系がどのような応答をするかを考えます。 入力とはここでは,外部電源より供給される電流のことです。 磁場は電流が流れることで生じることはマクスウェル方程式より自明です。 すなわち磁場の入力は電流であり,磁場という系を駆動させることから駆動電流と表現しているのです。
 式(1.5)を磁気抵抗率を用いて次のように変形します。

H = ν rot A
(1.20)
磁気抵抗率 ν は本来テンソル量ですが,そのすべての成分を考慮することは困難であることと, 計算コストの面から一般的な磁場解析ではその直交成分のみを考慮した次の式で表される近似を行います。
(1.21)
駆動電流密度を J0 とし,式(1.1)で変位電流を無視した式に式(1.21)を 代入すると静磁場問題の支配方程式が次のように得られます。
rot(v rot A ) = J
(1.22)
渦電流密度項の導入
解析領域内にある導体または磁性体に渦電流が流れる場合で, 渦電流による反作用磁場を考慮する場合には渦電流密度 Je を導入する必要があります。
渦電流は導体や磁性体に鎖交する磁束が変化した場合に現在の磁束を維持するように流れます。
具体的には,駆動電流が時間的に変化しそれに伴い磁場が変化するような場合と, 磁場中を導体や磁性体が運動する場合があげられます。
 渦電流密度 Je は,構成方程式(1.7)に速度項を導入した次の式で表されます。 V は導体の運動速度です。
(1.23)
 渦電流場について,マクスウェル方程式(1.2)に式(1.15)を代入すると次の式が得られます。
(1.24)
式(1.24)の右辺を左辺に移項すると次のようになります。
(1.25)
式(1.25)はベクトル
が,保存場であることを示しています。 したがって,式(1.18)と同様に,ベクトルの任意性によりスカラーポテンシャル(電位)φ の 勾配分だけの自由度が許されるので,次の式が成り立つことがわかります。(補足3)
(1.26)
以上より渦電流密度 Je は式(1.23)に式(1.26)を代入して次のように求まります。
(1.27)

ただし,

磁束の時間的変化がない場合:dA/dt = 0 , grad φ = 0

渦電流が生じる磁性体や導体の速度が 0 の場合:V × rot A = 0

となります。

等価磁化電流密度項の導入
 永久磁石などのように磁化のヒステリシスを考慮して磁性体を扱う場合は, 磁性体の磁気特性を磁化ベクトル M [T] を用いて表現します。
 この場合,磁場 B [T] と,磁界 H [A/m],磁化 M [T] の関係は次の式で表されます。
 磁石などを扱う磁気工学分野では,上で M [T] とした物理量のことを, 磁気分極あるいは磁化と言い I [T] や J [T] で記述されますが, 有限要素法の分野でこれらの文字は, 電流値の I〔A〕や電流密度ベクトルの J〔A/m2〕と混同するため, M [T] と いう文字を採用しています。
 この M [T] に相当する物理量の定義が統一性を欠いている事態については, 磁性体を扱う勉強や研究のあらゆるシーンで深刻な混乱を招いており,読者は文献およびソフトウェア等が どのような定義を採用しているか十分チェックしてください。
(1.28)
つまりここでは,磁性体の磁気特性を
B = μ0 H + M
M の単位は [T] つまり磁荷をイメージ。
と定義していますが,最近では次のような定義のほうがより一般的です。
B = μ0( H + M )
M の単位は [A/m] つまり磁化電流をイメージ。

式(1.28)を,次のように磁界 H [A/m] について表す式に変形します。

(1.29)
式(1.29)を式(1.2)のマクスウェル方程式に代入すると次のようになります。 なお低周波静磁界問題を対象としていますので変位電流の項は無視しています。
(1.30)
ここで,J0 [ A / m2 ] は駆動電流密度です。 次の式(1.15)の関係を,式(1.30)に代入すれば
(1.15)
次式が得られます。
(1.31)
式(1.31)を整理して次の形に変形します。
(1.32)
式(1.32)の右辺第 2 項は,磁性体の磁化が電流と等しい作用をすることを示しており, これを等価磁化電流密度 JM [ A / m2 ] で表します。
すなわち,
(1.33)
となります。
支配方程式
準定常磁場解析の支配方程式は次のようになります。
(1.34)
項の内容を明らかにした形で表すと,次のように表現できます。
(1.35)
支配方程式は,要素の媒質に応じて異なりますので,次にいくつか例を挙げておきます。
空気領域
(1.36)
コイル領域
(1.37)
永久磁石領域
(1.38)
渦電流のある磁性体
(1.39)
常磁性導体領域
(1.40)
 
いま支配方程式は式(1.35)で与えられていますが,その成分表示について考えてみます。
静磁場項の成分を求めてみます。まずベクトルポテンシャル A の回転をとります。
(1.41)
続けて回転をとります。磁気抵抗率に直交異方性を導入していることに気をつけてください。
(1.42)
式(1.42)は静磁場項の成分表示です。次に渦電流密度項を成分表示すると次の式のようになります。
(1.43)
等価磁化電流密度項の成分表示は次のようになります.
(1.44)

以上より各項に関する準備ができました。
支配方程式の成分表示は以下のようになります。

(1.45)
(1.46)
(1.47)
以上よりわかるとおり,三次元解析では式(1.45),(1.46),(1.47)の 3 式を連立して解かねばなりません。
したがって計算コストは非常に大きくなります。
まとめると,準定常磁場解析の支配方程式は以下のように表されることがわかりました。
(1.48)
右辺を左辺に移項します。
(1.49)
2次元場では,モデルの z 方向長さを無限に長いモデルとし,物理量は一定であると仮定します。
これは,ベクトルポテンシャル A および電流密度ベクトル J が, z 方向成分のみを有することを意味します。
すなわち,

および z 方向一様という仮定により,2次元場での支配方程式は次のように表されます。
(1.50)
符号を整理します。
(1.51)